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「脳を読み,つなぐための神経デコーディング」

2006年4月5日
国際電気通信基礎技術研究所 脳情報研究所
神谷 之康

スライド1 神谷先生の講演は、非侵襲(外科的手術無しの)計測によって人の脳から情報を取り出す(心を読む)ということでした。
スライド3 私たちの脳には他者の心を読むための機能があるといいます。霊長類の脳がなぜ大きいかというと、自然環境に適応するためというより、集団で生活するため、他の個体の心の状態を推測して自分の行動に役立てるためだと考えられています。それが心を読む人工的な機械がほしいという願望にもつながっているのかもしれません。
スライド4 科学では脳と心の関係がどのように考えられてきたのでしょうか。デカルトは、物質と心がどのように関連するか、という問いを立てました。これは非常に難しい問いで、この問い自体が正しいのかさえもよくわかりません。そこでフランシス・クリックはとりあえず心と脳の状態の相関を見ていけば、そのうち脳と心の関連がわかるのではないかという立場を明確にしました。クリックのような偉い先生のお墨付きで神経科学が心の問題を扱いやすくなりました。
スライド5 さらに、ニューロイメージングの発達によって脳活動と心を結びつけられるようになりました。よく使われる方法はfMRI(機能的磁気共鳴画像)という計測技術です。fMRIの利点は人の脳活動を非侵襲で脳全体を計測できることです。
スライド6 従来のfMRIを用いた研究は、刺激とそれに関連して生じる脳活動との間のマッピングをとることでした。神経活動をコード(符号)と見なすと、従来の方法は刺激が脳でどのように表現されているか、つまり神経活動が刺激をどのようにコーディングしているかを調べていることになります。デコーディングはその逆で、神経活動からどのような刺激が与えられているかを読み取ることになります。
スライド7 神谷先生は、まず視知覚のデコーディングを行いました。脳活動からどの傾きの縞を見ているのかを当てるのです。
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脳の視覚野には傾きに選択的に応答する神経細胞があって、その活動をデコードできれば、被験者が何を見ているか当たられます。しかし、fMRIの解像度は数ミリメートルしかなく、実際の神経細胞はその範囲に何万個とあります。つまり、fMRIで傾きに応答する神経細胞の活動を捉えようとしても、いろいろな傾きに反応する多数の神経細胞の活動が混ぜ合わさったものしか観測できません。そのためfMRIで観測した画素(ボクセル)どうしにはほとんど違いがなくなってしまいます。とはいえ、まったく違いがないわけではなく、すこしだけ違いがあります。ひとつひとつの画素は十分な情報を持っていなくても、たくさん集まれば情報を読み取れるかもしれません。
スライド15 神谷先生はそのことに着目して、ある種の人工ニューラルネットワークを用いて、情報を読み取るためのデコーダーを作りました。デコーダーははじめは無知なので、トレーニングデータで学習させる必要があります。そして新しいデータに学習済みのデコーダーを適応して評価します。
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この手法により、従来fMRIでは無理だと思われていた人の視覚野の傾き選択性を調べることができました。
スライド19 さらに神谷先生は、格子状の縞をみせてどちらか一方の傾きに注意をしてもらうというタスクを行い、その脳活動から被験者が注意を向けている傾きを当てるというマインドリーディングを行いました。その結果、被験者が注意を向けている傾きを脳活動だけから当てることができたのです。現在は、視覚のデコーディングだけでなく、どのような運動を行ったかのデコーディングにも従事しているそうです。
スライド22 デコーディングの応用としては、コンピュータやロボットを動かすというものだけでなく、アンケートやマーケティングなどに対しても応用が考えられます。これは人材評価などにも利用される可能性があるといいます。
有史以来、人間のコミュニケーション手段はさまざまに発展してきましたが、どれも筋肉を使うことには違いがありません。デコーディング技術はその壁を越えるブレインマシン・インターフェイスにつながっていきます。
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さらに、無意識のデコーディングは、自分にもわからない自分の心の状態を知ることを可能にし、意思決定の支援システムを作れるかもしれないません。
デコーディング技術がもたらす革新として、身体からの解放や統一した自我からの解放が考えられますが、それに伴って生じる倫理問題についても考えていく必要があるそうです。

質疑応答

問い
「縞模様を(実際に見ること無しに)イメージをしたときの脳活動でデコーディングが可能ですか」
神谷先生
「人によって異なります。視覚イメージの場合、絵のうまい人のほうが良いかもしれません」

問い
「デコーディングできるのは、トレーニングのときに教え込まれたうちのどれかということになりますけれど、将来的にトレーニング時に教え込んでいないパターンをどこまで読めるようになりますか」
神谷先生
「例えば指の動きの場合、指を一本一本または関節ひとつひとつ独立に学習させておいて、それらを組み合わせることで、今まで学習に使っていないパターンをデコードできる可能性があります」

問い
「脳出血により発話ができなくなり意志疎通が難しくなった人でも、デコーディング技術によって意思疎通が可能になるのでしょうか」
神谷先生
「デコーディング技術は、脳が正常に保たれていて脊髄損傷などで手足が動かなくなった場合などには有効ですが、脳の損傷の場合には難しいかもしれません」


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Last update: 2006.05.29

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