複数脳活動計測統合による高時空間脳活動推定法

要旨:脳ダイナミクス研究には、ミリ秒のオーダで変化する脳活動を計測する方法が必要ですが、現在のところそれを満たす計測方法は存在しません。MEGやEEGのもつ時間分解能はミリ秒のオーダですが、脳内の活動(しばしば電流源と呼ばれる)が生成する磁場または電場を頭外に置いたセンサで計測するため、脳内における活動位置はわかりません。脳内の活動位置を知るためには、計測データと電磁場の法則を用いて推定する問題「電流源推定問題」を解かなくてはいけません。「電流源推定問題」は、たとえ磁場や電位のデータにノイズが無くても、原理的にデータだけから脳内活動分布を一意に定められない逆問題であることがわかっています。そのため、計測データ以外の事前情報を加味する必要があります。初期の解法では、電流強度の最小化や空間的な滑らかさなど電流源の定性的に満たすべく性質に注目した事前情報が使われていましたが、その後、より定量的な事前情報としてfMRIデータが持つ脳内位置情報を利用する方法が注目を浴びています。本研究室では、fMRIの持つ高い空間定位性を利用し高時空間分解能な脳活動推定を実現する、階層ベイズモデルと変分ベイズ法を用いた電流源推定法を考案しました(Sato et al. 2004)。(注意)本方法を用いるには、同一実験時の脳活動をfMRIとMEGで2回計測しなくてはいけません。

fMRIで得られる空間情報をMEG/EEG(/はMEGまたはEEGの意味)の電流源推定問題に組み込む方法は大きく分けて2通りあります。1つは、事前情報として取り込む方法、もう1つは生成モデルとして取り込む方法です(ROSA et al. 2010)。事前情報として取り込む方法は、fMRIと電流源の対応関係を数式的な関係のみで記述します。一方、生成モデルを使う方法は、電流源からfMRIへの生成過程、電流源からMEG/EEGの生成過程をモデル化することによってfMRIの情報をMEG/EEGの情報を組み合わせます。

本グループで開発した階層ベイズモデル(Sato et al. 2004)は、前者の事前分布としてfMRI情報を取り込む方法に属します。直観的に言えば、fMRIデータを統計処理することによって得た”活動マップ”を電流源の空間的配置として利用し、時間変化する波形情報としてMEG/EEGデータを使うイメージです。具体的には、電流源の空間パターンを求めたい未知パラメータとして、電流源の空間パターンの事前情報としてfMRI活動マップを組み込み、電流源の空間パターンからMEG/EEGの観測過程を尤度関数として確率モデルで定式化します。推定アルゴリズムは、事後分布を変分ベイズ法(variational Bayes; VB)により求めることによって導出します。

fMRIを事前情報として取り込む方法は別のグループからも提案されていました(Liu et al. 1998; Dale et al. 2000)が、VBMEGは階層事前分布を用いることによって既存手法の弱点を解消しています。既存手法では、fMRIがMEG/EEGの活動分布として完全に正確な情報を与えることを前提していますが、この前提条件は、fMRIとMEG/EEGの感度の違い、統計的処理の誤差、fMRIとMEG実験パラダイムの差異などの理由に必ずしも満たされるとは限りません。本手法では、MEG/EEGデータに基づいてfMRI情報の取り込む度合いを場所ごとに調整することによって、fMRIとMEG/EEGの活動源に相違があってもMEG/EEGの情報をより重視した電流源推定を与えます。また、もう1つの特長として、推定される電流源パターンが空間的にスパースになり、脳活動の局在論と相性の良い推定法となっています。

VBMEGは、シミュレーションだけでなく、実験データ(視覚・体性感覚・聴覚・運動実験など)でも、その有用性が検証されています。また、実験者の方々に直観的に使用してもらうためのGUI付きのソフトウェアとして一般公開しています。是非、高時空間分解能が必要な研究を行われている方は利用してみてください。

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参考文献

    • Sato, M. et al., 2004. Hierarchical Bayesian estimation for MEG inverse problem. NeuroImage, 23(3), pp.806–26.
    • Dale, A.M. et al., 2000. Dynamic statistical parametric mapping: combining fMRI and MEG for high-resolution imaging of cortical activity. Neuron, 26(1), pp.55–67.
    • Liu, A.K., Belliveau, J.W. & Dale, A.M., 1998. Spatiotemporal imaging of human brain activity using functional MRI constrained magnetoencephalography data: Monte Carlo simulations. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 95(15), pp.8945–50.
    • Rosa, M.J., Daunizeau, J. & Friston, K.J., 2010. EEG-fMRI Integration: A Critical Review of Biophysical Modeling and Data Analysis Approarches. Journal of Integrative Neuroscience, 09(04), pp.453–476.
    • VBMEG関連の資料